WISE SCAPE - ワイズスケープ / 福島の木造注文住宅、住宅設計

INTERVIEW

001.食とヨガと猫の家

WISE SACPEギャラリーにて、定期的に開催しているヨガ教室。こちらの講師が、今回インタビューするSさまです。Sさま邸は「プルシャ」というヨガ教室とカフェを併設しています。東に開いたコの字型の家で、コの字の中心には四季を感じさせるような中庭が広がります。外観は白いかきりしん(土壁)でシンプルなデザインですが、お客さま用の玄関を入るとお香のエスニックな香りに包まれ、木と漆喰の温かい空間が広がります。

WISE SCAPEのデザインで、自分専用のヨガスタジオを作りたいと思った。

もともと、Sさまご夫婦はご主人が独身時代に建てた家に住んでおり、新たに家を建てるつもりはなかったそうです。WISE SCAPEと出会ったきっかけは、WISE SCAPEが施工したお施主さまの料理教室にSさまが偶然参加したとき、会場であるご自宅に感動して興味を持ってくださったそうです。

当時、奥さまはいくつかの公民館を借りながら点々とヨガ教室を開いていました。WISE SCAPEの家づくりを見て、スタジオだけ作るか、中古の家を買ってリフォームしてもいいかな、と思い始め、ご相談にいらっしゃいました。その話し合いでまず、土地が必要だということを知ります。

その後、本格的に土地探しを始める事になったのは東日本大震災がきっかけでした。いつも使っていた公民館が避難所になり、ヨガ教室が開けなくなってしまった時に、自分専用のスタジオが欲しいと考えたそうです。ここから、WISE SCAPEとSさまの家づくりが始まりました。

簡単に見つかるだろうと高を括って始めた土地探しはとても大変で、1年以上かかったとご主人は語ります。震災後、相双地区から避難した多くの人が土地を求めていたからです。苦労の末、ようやく見つけた土地をキャンセル待ちをしてまで購入したそうです。そうして見つけた土地も、田んぼだった土地なので地盤改良が必要だったり、地下に貯水プールを作る必要があったりと簡単にはいきませんでした。

「要望」を「最善」にする、プロの提案。

設計は渡邊と皆川が担当しました。「打ち合わせはとにかく楽しかった」と奥さま。時には渡邊と奥さまの議論がヒートアップしご主人が止めに入ることも。「プロの目から見て必要なことは絶対に曲げない姿勢に好感を持てた」と奥さまは語ります。

例えば、奥さまの要望はヨガスタジオの南を掃き出し窓にして、太陽の光を浴びながらヨガをしたかったのですが、渡邊の「南には視線の抜けがないから(大きな倉庫のような建物がある)気持ちよくない。また、暑いし、眩しいです。逆に中庭を向けば、眩しさもないし、光も絶対に入ります」という意見から、反対の庭側に大きな窓を設置しました。結果的に光は十分に入り、生徒さん達からは中庭の緑を見ながら行うヨガがとても気持ち良いと評判だそう。

他にも、設計のプロとしての見解を通した例として、東からの朝日を寝室に取り込むため、リビングと寝室を隔てる壁の欄間にFIX窓(はめ殺し窓)を設置しました。朝日で気持ちよく起きられるので、提案通りにして本当に良かった、と奥さまは語ります。

一方で、奥さまもこだわる部分は譲りませんでした。奥さまの要望でヨガスタジオの柱は構造を支える太い梁になりました。照明や建具のデザイン、ブラインド等を決める際には皆川の提案をバッサリと却下することも。本音を遠慮なく言える関係を築けていたからこそ、Sさまは要望を言いやすかったそうです。

お互いに納得いくまで議論して最善な形を目指しながら、一緒に家づくりを進めました。

「長い人生、良い家に住んで、気持ち良く暮らしたい」

Sさまは猫が大好きで、猫も気持ち良く、楽しく過ごせるようにこだわった部分がいくつかあります。リビング周りにキャットウォークを造作し、寝室とリビングの間に猫用の出入り口を作り、リビングの柱に縄を巻いて爪とぎをできるようにしました。

実は皆川が縄を巻く作業を行ったのですが、「もう二度とやらないです。」と言うくらい大変だったそう...今では良い思い出です。

そして土地探しから4、5年越しで念願の家が完成しました。その時の気持ちを伺うと、「感動したけど寂しさを感じた。それだけデザイナーや大工さん、各業者さんと関わった家づくりの時間が楽しかった」と奥さま。「達成感や感動はあったが通過点という気持ちが強かった」とご主人も続きます。

大変さもひっくるめて楽しく充実した時間だったと振り返ります。ご夫婦二人で役割分担をして、協力しながら家づくりを進められた事も大きいのかもしれません。

アグレッシブで発想力豊かな奥さまは主に各デザイン等を決める担当。一方、旅行に行く1週間前から荷造りを行い、旅行のしおりを作ってしまうくらいマメで用意周到な性格のご主人は各種手続きが担当だったそう。まさに理想のご夫婦ですね。

どちらかと言えば奥さまが家づくりに積極的だったのかなと思いきや、最終的にご主人が決断し後押しをしてくれたそうです。家を持っていたのに、さらに家を建てるという大きな決断をできたのはなぜかをご主人に尋ねると、「これからの長い人生を考えれば、一生懸命働いて、良い家に住んで気持ちよく暮らした方がいいと思ったから」と語ってくれました。

家が完成した時に"通過点"という表現をしたのも、良い家を手に入れる事が目的ではなく、良い家でどのように暮らし、どう人生を歩んでいくのかを重視しているからではないでしょうか。

巷では(ヨガの生徒さんの間では)"パワースポット"と言われており、「ヨガスタジオにはいい人しか集まらない」と奥さまは話します。気持ちの良い空気と空間に、人々の心が浄化されるのでしょうか。それともSさまの人柄に感化されるのでしょうか。これからもたくさんの「いい人」が集まる場所であり続けるでしょう。